BL10XU 概要
問い合わせ番号
INS-0000000437
ビームラインの概要
ビームラインBL10XUは、超高圧力下及び低温または高温状態の極限条件下における物質の構造物性研究を目的としたX線回折実験用の高圧構造物性ステーションであり、500 GPa(1 GPa ≈ 1万気圧)以上の高圧発生が可能であるダイヤモンドアンビルセル(DAC)に封入された微小試料をターゲットとした測定基盤整備がされています。真空封止型アンジュレータを光源とした単色X線(エネルギー領域:6〜61 keV)を使用し、試料からのデバイ=シェラーリングの観察には二次元検出器であるイメージングプレート(IP)とX線フラットパネル(FPD)、高速撮像用CdTe素子ハイブリッドピクセルアレイ検出器を使用することができます。実験ハッチ内には低温・高圧実験用のクライオスタット(7〜300 K)と、高温・高圧実験に利用する両面レーザー加熱システム(1500〜6000 K)が整備されています。本ビームラインでは、DACによる高圧発生とSPring-8のX線光源の特徴である高エネルギー・高強度・高空間分解能特性を利用し、物性測定やラマン分光測定と組み合わせた超高圧領域における結晶構造解析(相転移、分子解離等)や状態方程式構築などの圧縮挙動解明による物質材料科学分野における研究、地球/惑星科学分野における固体物理学的研究が展開されています。
光源と光学系
BL10XUでは周期長28 mm、長さ3.6 mの真空封止型アンジュレータによる高強度の準単色X線を光源としています。実験における広範囲なX線エネルギーの使用の必要性に対し、アンジュレータのギャップの増減による磁場調整によって対応することができます。アンジュレータからの放射光X線は液体窒素冷却型Si二結晶分光器(DCM)によって、大強度(フラックス強度:>1013 photons/sec)で高分解能(ΔE/E ∼ 10-4)へ単色化されます(図1)。本分光器には、分光結晶として回折面の異なるSi(111)結晶とSi(220)結晶が並列配置されており、切り替えにより各々∼37 keV、∼61 keVまでのエネルギー範囲が利用可能です。DCMの下流4.3 mにX線集光用複合型X線屈折レンズ(グラッシーカーボン材: ∼45 keVまで対応、アルミニウム材: 40∼61 keVに対応)が設置されており、試料部でのX線スポットサイズを最小0.05 mm(垂直方向)×0.15 mm(水平方向)まで集光することで、X線強度密度を約7倍に増大することが出来ます。X線屈折レンズの使用による角度発散(約10秒)に関しては非常に小さく、高圧下での粉末X線回折実験を行う上での十分な高分解能特性が得られています。実験ハッチ内に設置された屈折レンズと組み合わせることでの多段階集光により、最終的に試料位置において最小0.8 µm(V)× 0.9 µm(H)の微小径ビームを提供可能です。
図1 BL10XUの光学ハッチ概要図
- 実験ハッチ内試料位置でのX線条件
使用可能エネルギー領域 6 - 61 keV エネルギー分解能 ΔE/E ∼10-4 ビームサイズ φ 0.001 - 1.0 mm フラックス ∼1.0 × 1013 photons/sec (30 keV), ∼1.0 × 1012 photons/sec (61 keV)
実験ステーション
DAC用高圧X線回折装置はビームラインの実験ハッチ1および2に設置されています(図2)。本ステーションにおいて高圧X線回折実験に使用されるX線エネルギー範囲は、高圧装置に使用されているダイヤモンドアンビルのX線吸収の影響とX線ビームの強度及びX線集光レンズの特性や制約から、20〜61 keVが標準とされています。
図2 実験ハッチ1における高圧低温X線回折・ラマン散乱同時測定実験装置
・実験ハッチ1(低温粉末・単結晶XRD測定)
主に低温高圧実験を行うため、低振動・横倒し型X線回折用He循環式GMクライオスタットと同クライオスタット搭載用高耐荷重型ゴニオメータが設置されています。クライオスタットにはガスメンブレン駆動式DACを使用することで、外部から圧力制御可能です。低温下で常時ラマン散乱測定および圧力測定を行うためのカーボンミラー式長焦点型光学ユニットによるオンラインラマン分光・圧力モニターシステムが導入されています。図2に示すように、レーザー光と可視光を反射させるためのグラッシーカーボン製ミラー(30 keVにおいて90%以上のX線を透過)と、長焦点光学レンズを備えたラマン光学系を有するシステムとすることで、ラマン分光用レーザー光学軸とX線光軸を同一にし、常時観察することが実現されています。圧力測定用蛍光励起レーザーにはダイヤモンドによる吸収と励起効率を考えて、532 nm半導体レーザーが使用されています。
X線回折像の測定には、イメージングプレート検出器(IP、リガク製:R-AXIS IV++、300×300 mm2、ピクセルサイズ0.10 mm)とX線フラットパネル検出器(FPD、Perkin Elmer製:XRD0822 CP23、1024×1024ピクセル、ピクセルピッチ0.20 mm)の2種類の二次元検出器が選択して利用できます。X線回折測定時における試料-検出器間のカメラ長は、測定回折角度範囲と角度分解能に応じて各々220-540 mm、200-450 mmの範囲で移動することができます。
・実験ハッチ2(レーザー加熱、サブミクロンビーム利用)
主に高温高圧X線回折実験およびマイクロビームを利用した超高圧X線回折測定が可能です。ハッチ内には、X線入射光学系、DAC試料ステージ、X線検出器ステージおよびレーザー加熱光学系が設置され、それぞれ独立した光学架台に搭載されています(図3)。X線入射光学系およびレーザー加熱光学系用光学架台には、光学系全体がX線光軸位置・方向に調整できるよう大型自動ステージが設置されています。試料ステージは、50 mmの立方体タイプのDACや直径48 mmの両面レーザー加熱用対称型DACを代表に多様なDACを設置できるほか、高精密・高剛性・高耐荷重設計となっているため、極低温・高圧実験用クライオスタットなど様々な高圧実験アプリケーションに対応可能です。
図3 実験ハッチ2設置の高圧X線回折実験用精密ステージシステム
X線回折像の測定には、イメージングプレート検出器(IP、リガク製:R-AXIS IV++、300×300 mm2、ピクセルサイズ0.10 mm)とX線フラットパネル検出器(FPD、Perkin Elmer製:XRD0822 CP23、1024×1024ピクセル、ピクセルピッチ0.20 mm)の2種類の二次元検出器の選択が可能です。主にIPは高分解能で精密な回折強度解析を必要とするとき、一方FPDは迅速なデータ取得が必要な場合に使用されます。X線回折測定時のカメラ長は、IPとFPDで、それぞれ200-450 mmと200-430 mmに、測定回折角度範囲と角度分解能に応じて移動・調整することができます。2021年度より高速撮像用CdTe素子ハイブリッドピクセルアレイ検出器(X-Spectrum社:LAMBDA CdTe 750k、ピクセルサイズ55 µm×55 µm、512×1528ピクセル)が整備され、FPDと入れ替えて利用可能になっています。
DAC試料部を観察するため、顕微鏡ユニットが検出器用ステージに設置されています。この顕微鏡ユニットは光ファイバーで外部の分光器および半導体レーザーと接続されており、圧力測定用顕微ラマン分光装置として、試料部の圧力測定およびラマン散乱測定がオンラインで可能です。
高圧下での高温X線回折実験には近赤外線レーザーによる両面レーザー加熱システムを使用可能です(図4)。地球・惑星科学分野、材料合成分野など多岐に渡り利用されています。DACへの加熱用近赤外線レーザーの導入には、銀(Ag)薄膜コーティングされたグラッシーカーボン製平板ミラーが利用されており、入射X線エネルギー30 keVの場合、X線を効率90%で透過させることができます。加熱用レーザーとしてSPI社製ファイバーレーザー(100 W×2台)が導入されており、レーザー照射スポットサイズは、10〜40 µmの範囲で集光可能となっています。
図4 実験ハッチ2設置のDAC用両面加熱式レーザー・温度計測光学系
マイクロビームを用いた低温高圧X線回折実験を可能とするため、実験ハッチ1と同様の低振動・横倒し型X線回折用He循環式GMクライオスタットが整備されています。レーザー加熱、低温実験共にガスメンブレン駆動式DACを用いた外部圧力制御が可能です。
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本ステーションでは、以下のソフトウエアが標準装備されています。
- IP検出器の制御は、 (株)リガクにより開発された専用ソフトウエアを使用しています。OSは2020年現在Windows7です。
- FPD検出器の制御は、(株)ナショナルインスツルメンツ(NI)社製LabVIEWでプログラミングされたグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)から操作しています。OSは2021年現在Windows10です。
- DACステージ、X線入射光学系や検出器ステージなどは、ツジ電子製ステッピングモータコントローラPM16Cによる機器制御を基本としています。NI社製LabVIEWでプログラミングされたGUIから操作しています。OSは2021年現在Windows10です。
- 圧力測定用オンライン顕微ラマン分光装置およびオフラインルビー蛍光圧力測定システムを制御するソフトウエアには、Teledyne Princeton Instruments社製LightFieldが使用されています。OSは2021年現在Windows10です。
- 2次元検出器(IP及びFPD)のデータプロセッシング、二次元強度データの表示、統合や差分、角度vs強度データの変換ソフトウェアが各種導入されています。OSは2021年現在Windows10です。
- 標準装備品
- スリット光学系
- ゴニオメータ(耐加重100 kg)
- イメージングプレート(IP)検出器
- X線フラットパネル検出器(FPD)
- CdTe素子ハイブリッドピクセルアレイ検出器 (実験ハッチ2)
- 圧力測定用顕微ラマン分光装置(オンライン): 励起レーザー532 nm(実験ハッチ1、2), 633 nm (実験ハッチ2)
- 低温高圧実験用電気伝導度測定システム(実験ハッチ1)
- DACアダプター類
- クライオスタット・温調ユニット付(7 K ∼)
- 両面加熱式レーザーシステム(1,500 ∼ 6,000 K)
- X線回折用マルチチャンネルコリメータシステム(実験ハッチ2)
- ダイヤモンドアンビルセル(基本持参をお願いしています。貸し出しについては課題提案前に担当者にご相談ください。)
- 実験ホール内試料準備室
- 実体顕微鏡
- 放電加工装置(ガスケット穴あけ用)
- ルビー蛍光方式圧力測定装置(オフライン):励起レーザー488 nm
- 圧力測定用近赤外顕微ラマン分光装置(オフライン):励起レーザー785 nm
- ラマン分光装置(オフライン):励起レーザー532 nm
文献検索
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連絡先
(注)e-mailアドレスは@マーク以下を省略していますので、アカウントの後に@spring8.or.jpを付けてください。
門林 宏和
(公財)高輝度光科学研究センター (JASRI)
放射光利用研究基盤センター
回折・散乱推進室 粉末回折・全散乱チーム
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1丁目1-1
Phone : 0791-58-0833
FAX : 0791-58-0830
e-mail : kadobayashi
柿澤 翔
(公財)高輝度光科学研究センター (JASRI)
放射光利用研究基盤センター
回折・散乱推進室 粉末回折・全散乱チーム
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河口 沙織
(公財)高輝度光科学研究センター (JASRI)
放射光利用研究基盤センター
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